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活動学外の活動内容

権利処理という仕事について1

株式会社テイクオーバル
AIPE認定 知的財産アナリスト 我妻 潤子

1. はじめに~自己紹介を兼ねて~

 私は10 年にわたり著作権などの権利処理の業務代行という仕事に携わってきました。大学との関わりでは、情報リテラシー教育で非常勤講師を務め、また、e ラーニング授業を配信するときの教材の権利処理、科研で著作物を利用する場合の権利処理などを行っています。

2. 権利処理とは

2-1. 著作権の役割

 『著作権法入門』第2 版(有斐閣) には下記のように記載されています。

 - 「著作権法は、文化の発展への寄与(1条)を目指して、これら広範な創作的表現(=著作物) について、創作した者(=著作者) と利用を望む者との利害を調整する社会的ルールを提供している1

 この文から読み取れる重要なことは著作者と利用者のバランスの大切さです。著作権は、権利者に優位なイメージがあります。著作物を無断で利用すると侵害になってしまう場合があり、利用する際には許諾をもらわなければならないという点がそのように思わせるのかもしれません。しかし、権利だけが一方的に強くなり、肝心の著作物が全く利用されなければ、文化の発展に寄与できず、一方で利用者が著作物を勝手に使い始めたら、よりよい著作物が生まれ難く、その場合も文化の発展に寄与することが難しくなります。つまり、両者のバランスが取れてこそ、著作権は成り立つのです。最近では作品をインターネットなどで自己発信することも増え、利用者は権利者にもなり得ます。両者の立場で考えてもらうことが重要になり、私の講義でもこのことは重点的に学生へ伝えています。

2-2-1. 大学と著作権

 利用者が権利者になり得るという状況は、大学でも同様です。例えば、講義で上映するスライド教材(著作物)はそのスライド教材を作成したA先生が著作者(権利者) となります。しかし、そのスライド教材の中に研究者B の著作物を利用した場合、A 先生は利用者になるのです。大学の授業内だけでその著作物を利用する場合は問題ありませんが、Moodle などのLMS にアップする場合は研究者B の許諾が必要です。つまり、先生方においても、権利者と利用者の両方の立場から著作権を理解して頂く必要があるのです。

 この段階でひとつ疑問に思われることがあるかもしれません。それは著作権の対象となる著作物とはそもそも何を指すかという問題です。著作権法では「思想又は感情を創作的に表現し、文芸、学術、美術、又は音楽の範囲に属するものをいう(2 条1 項1 号)」と定められています。わかりやすいものでいうと、先生方が執筆された論文や書籍、それ以外にも小説、絵画、映画などが著作物といえます。これらの著作物を講義で利用したいときは、権利制限があり、許諾がなくても利用することができます。しかし、例えば100 名以上の学生が受講するような授業で映画を60 分ほど見せる場合は、「講義」といえども許諾が必要な場合があるのです。この線引きがとても難しいといわれています。

2-2-2. 許諾をとるということ

 2-2-1 で何度か「許諾をとる」ということを記載しました。著作権は許諾をとらずに利用すると著作権侵害になる場合があります。このため、よく「こういう使い方はNG」という表現で伝えられます。実は、この一文には「このような使い方は許諾をとらずに利用するとNG である」の略なのです。「許諾をとらずに利用すると」が略されているため、“著作物が使えない” というイメージが先行してしまうのです。しかし、権利者に一言「使わせてほしい」と伝え、権利者から「良いですよ」と許諾をもらえれば著作物は利用できるのです。友達からボールペンを借りるときに黙って借りる人はいないでしょう。ところが、著作物になると許諾をとるのは難しい、面倒だと思われるのではないでしょうか? 確かに中には難しいものや面倒なものもありますが、一度「許諾をとる」ことを体験すると、意外と簡単な場合もあるのです。

 許諾が必要な場合の具体的な取り方などについては、次回以降、上智大学ファカルティ・ディベロップメントのWeb サイトでお伝えしたいと思います。

  1. 『著作権法入門』第2 版 島並良、上野達弘、横山久芳著 2016 年 有斐閣 p.2