ニュース 各部門の活動 2022年度
2022年度 第3回ランチタイムフリートーク
- 主 催:
- 外国語学部
- 司 会:
- 小川公代先生
- 講 師:
- 山中美潮先生
- 日 時:
- 2022年7月5日(火)12:45-13:20
- 実施方法:
- オンライン
- 参加者数:
- 17名
概要
【研究紹介】
発表者の主な研究対象は、再建期(1865~1877年頃)から20世紀初頭におけるアフリカ系アメリカ人の歴史、とりわけアメリカ南部のルイジアナ州を中心としたメキシコ湾岸部における、奴隷制度後の有色のクレオールたちの市民権運動についてである。19世紀当時、アメリカ最大の都市の一つであったルイジアナ州のニューオーリンズは、国内最大規模の奴隷市場を持つと同時に、有色のクレオールの人たちによる自由な社会風土が根付いた特異な地域であった。発表者はこうした有色のクレオールの人たちが奴隷制廃止後にどういった社会を目指していたのかを窺い知れる資料として、ルイジアナで発行されていた『ニューオーリンズ・トリビューン』という新聞に注目する。そこには有色のクレオールの人たちが人種隔離に反対する記事を多く寄稿しており、発表者はそれらが20世紀の公民権運動に繋がるような独自で先駆的な運動や言説の数々を作り出していたと見ている。このような南部における人種隔離反対運動の先駆的な事例や、有色のクレオールというユニークな人たちの存在に注目することで、南部「黒人」の多様なエスニックバックグランド、階級、地位を改めて捉え直し、アメリカ黒人の集合的な歴史をよりダイナミックに描き出すというのが発表者の現在取り組んでいる研究である。
【フリートーク】
質問① 発表の最初に触れていた日系人のことや、環大西洋研究と環太平洋研究の繋がりが個人的に気になるところなので、その点をぜひ伺いたい。
→ アメリカ南部地方に移住した日系人にも興味があり、彼らの歴史に注目することで南部史を環太平洋側に向けられるのではないかと考えている。その考えを持つきっかけとなったのが同志社大学の第4代社長であった西原清東という人物を知ったことであり、彼を通して見たアメリカ南部史の研究にも現在力を入れている。
質問② ニューオーリンズと言えばジャズなどの文化がすぐ頭に思い浮かぶが、そうした文化的な面についても研究の視野に入っているのか?ラテンアメリカ研究との交流なども持っているか?
→文化史や文化研究は専門の対象外だが、ジャズも当時の市民権運動と深い関係があることに気づき始めているところ。ラテンアメリカの分野の研究者との交流はまだ乏しいので、今後ぜひ交流していきたい。
質問③ 『ニューオーリンズ・トリビューン』の発行部数や頻度、期間はどのくらいのだったのか?また同時期の黒人新聞と比べて何か際立った特徴があるのか?
→『ニューオーリンズ・トリビューン』はフランス語の新聞が母体になっており、英仏のバイリンガルで発刊、若干の休止期間を挟むものの1864~71年の間ほぼ毎日刊行されており当時としては特異な新聞だった。人種隔離に一貫して反対の立場を打ち出していたのがやはり特徴的。
質問④ クレオールを描いた文学作品のなかで、白人のふりをするPassingの問題がテーマになることがあるが、『ニューオーリンズ・トリビューン』ではそのような問題について触れられているか?
→Passingは日常的にしばしばあったことなので、『ニューオーリンズ・トリビューン』でもそれを根拠に人種隔離は意味がないという論調を張っていた。Passingはこれまでタブー視されていたトピックなので、歴史的に研究が浅く、これからもっと注目されると思われる。
【司会者のコメント】
南北戦争時に米国ニューオーリンズに住んでいた有色のクレオール(その多くがヨーロッパとアフリカ人の混血)についてのお話、大変興味深く拝聴しました。とりわけ、彼らが奴隷ではなく自由な身分であり、家族で熟練労働者である場合が多く(大工、土地投機者、ハイチとの貿易をしていた)、経済的には有利な立場にあり、新しい社会を目指していたという事実に驚き、知的刺激をいただきました。「ニューオーリンズ・トリビューン」紙を創刊したルダネなどに着目されたことで、具体的な人間像が浮かび上がり、興味をそそられました。参加された先生方も、多くの質問やコメントを寄せてくださり、とても盛り上がった回ではなかったかと思います。