ニュース 各部門の活動 2022年度
2022年度 第4回ランチタイムフリートーク
- 主 催:
- 外国語学部
- 司 会:
- 子安先生
- 講 師:
- 宮入先生
- 日 時:
- 2022年11月22日(火)12:45-13:20
- 実施方法:
- オンライン
- 参加者数:
- 19名
概要
【研究紹介】
〇経歴について
上智大学ポルトガル語学科に入学。もともと興味のあった外国語、文学、芸術(特にシュルレアリスム)に関する学びを深め、東京外国語大学に進学。現在まで、ブラジル文学、特に、ブラジル北東部の文学、文化を研究している。
〇研究内容
シュルレアリスムと関連がある文学者である、ジョアン・カブラル・ジ・メロ・ネトを研究。
カブラルは、20世紀のブラジルを代表する詩人である。ブラジル北東部(ノルデスチと呼ばれる)の中でもユダヤ系の人々が多く渡ってきた地域の出身であり、若いころにはユダヤ系の有識者たちと集まり文学談義や試作を行っていた。初期の作品には、ヨーロッパの前衛芸術に影響された、抽象的な作品が多かったが、その後、自身の出身地であるノルデスチの社会問題、特に貧困問題を扱った作品を書くようになった。
カブラルは生涯、「詩」とはどのようにあり得るのか、そしてノルデスチにおいて詩がどのような役割を担うことができるのか、ということを問い続けた詩人でもある。
このカブラルとその作品をより理解するために、ノルデスチ地方の研究、また、カブラルのライバルであったアリア―ノ・スアスーナ(ノルデスチの民衆文化を比較的ポジティブに表現することで知られる作家)についても研究。
さらに、ノルデスチの貧困と文学の関係を研究する中で、現在はブラジルのマイノリティ文学(黒人、女性、貧者による文学)についても調査中である。特に、サンパウロのスラムの生活を日記という形で描いた作家カロリーナ・マリア・ジ・ジェズス(女性でありアフリカ系でもある)や、サンパウロ郊外のスラムを拠点に、マージナル文学の運動を牽引する作家フェヘス(ラップや動画配信という形でもスラムの文化、貧者から生まれてきた文化を広めている)についても研究している。
カブラルは、ブラジルのような経済格差のある国では貧困問題を無視することはできない、という言葉を残しているが、こうした貧困問題に対して、作家たちが言葉を通じてどのように向き合っているのかということを今後も研究していく予定である。
【フリートーク】
質問① どのように貧者の文学を調査しているのか、また、どのようなアプローチから研究しているのか?
→作家たちは「言葉を使って伝える」ことを生業としているが、ブラジルの貧困地域では非識字者も多く、そうした人々に(作家の思いなどが)届かないという事情もあり、その点について作家たち自身も悩んでいる。このことは重要な研究テーマとなっている。
質問② 貧困の文学というのは、カブラル自身が作った言葉なのか?またこの言葉は文学自体の貧困という意味なのか?
→貧困の文学は、社会問題としての貧困に関する文学という意味である。しかし、芸術の形式としての貧困についても、カブラルに対する批評としては存在する。例えば、カブラルの詩のスタイルは無駄を排したミニマルなものなので、抽象的な意味で「貧困」だと評価されることもある。
質問③ 詩がノルデスチの地域においてどのような役割をもてるのか、という問いに対して、カブラル自身はなにか解答を見出したのか?
→カブラルは、“Morte e Vida Severina”という作品において、ノルデスチの民衆文学(非識字者たちのために音読で伝承された)をモデルにするという手法を試みている。こうした手法をとることで民衆たちにも自身の作品が広まるのではないかと考えてのことであった。しかし自身の満足のいくようには民衆たちに伝わらなかったとカブラル自身は評価している。実際にはブラジル国内で有識者だけでなく一般の人々にもこの作品は広まり、ノルデスチの貧困の状況が広く知られたため、こうした作品を残したこと自体には価値があると考えられる。カブラルは最終的に、自分から貧者たちに働きかけられることはない、むしろ貧者たちが自主的に活動していくことに期待するといった考えに落ち着いていった。
質問④ 安部公房は、日本の経済に関心を持ち、新しいスタイルも試していた。そういった意味で、安部公房とカブラルのつながりもあるのでは?
→自分自身も、カブラルは安部公房とスタイルが似ていると感じており、だからこそ好きになった面もあると思う。
コメント ラテンアメリカの詩を翻訳した人物として、アメリカの詩人であるエリザベス・ビショップが有名である。
→エリザベス・ビショップはカブラルの作品も翻訳している。両者は良好な関係を築いていたことが知られている。
【司会者のコメント】
講師のご専門を他学科の先生方にご紹介でき大変有意義な時間だったと思います。ブラジルの(とりわけブラジルの一つの地方、北東部の)文学ということで、ともすれば内向きな議論になってしまいがちですが、宮入先生が研究対象とされている詩人カブラルの作品がアメリカの詩人エリザベス・ビショップによって翻訳されていることなど、外国語学部の先生方によるフリートークらしく、ブラジルを超え、横につながる情報共有ができ、私自身とても勉強になりました。ありがとうございました。